古民家再生の手法 (2)基礎
古民家を再生する場合の「基礎」の考え方
古い民家をお持ちの方はまずその基礎について話題にされることが多い。どんなにお金をかけても基礎がだめならすべてだめと言う言われ方をする方も多い。
私から言えば、そうでもない。
基礎からやるとすれば、建物を持ち上げて、基礎の鉄筋を組み、コンクリートを流し込む。
確かに「きちんと」なるであろう。設計する方としてもそこまですれば文句なしだ。
しかしながら、100人の古民家再生を希望する人がいて、そこまでの費用が出せる人が何人いよう。
古民家は100年以上も経過したものも多い。その間地盤の沈下や、建物自体の場所による荷重の違いなどで不同沈下を起こしているものも多い。
最初驚いたのは、鉄筋コンクリートの建物であれば右に傾けば、建物全体が右に傾いているものだが、木造で、しかも基礎は延べ石というような古民家では、こちらは西にに傾き、こちらは東にに傾き、という傾き方をしている。
柱がてんでばらばらの方向に傾いていることも多い。ただ、鉄筋コンクリートの建物と比べて、木造の柱の数はぼう大で、一本当たりの柱にかかる荷重は知れている。
古民家再生をしているとよく、完全に柱や梁が腐り、根元からなくなっている場合が多々ある。全く荷重を受けていないのだが、建物は傾いてもいないことがある。それはこういう理由なのだ。
建物の沈下。これを直すには、家曳き等を専門とする業者に、完全に建物も浮かせてもらわなければならない。また、全体を持ち上げるならよいが、部分的にジャッキアップすると、たいがいは一度には持ち上がらないので、ひねりが生じ、壁などがほとんど損傷する。よって再生には大変な費用がかかってしまう。
もう一つはそこまでするのなら、いっそのことほとんど解体し、梁と柱だけにするか、ばらして再度組み上げるかだ。これは法的にはいろいろと解釈があり問題になるところだが、長くなるのでまた後日述べようと思う。
技術的にはこの方が簡単かもしれない。しかし、これもまた手間がかかることには違いない。すなわち費用がかさむ。
私は今まで60棟以上の古民家を再生してきた。相談はたぶん数百件受けている。ふんだんに費用のある方ばかりではない。いや逆に限られた予算の中で行いたい、と言われる方の方が当然多い。
初期の頃はよく、全体の再生計画を出し、予算も驚くべきものになることがあったが、現在は良くお話をお聞きし、限定した範囲であっても、できるだけ理想に近い提案をさせていただくよう心掛けている。
お施主様さえ気づかれていない、本当の要望を見抜いていく力とコミュニケーション能力が必要だ。
まず、屋根をふき替えるだけで、大量に瓦の下に敷き詰められた土を撤去するので、建物全体の荷重はすこぶる軽くなる。地震力は荷重に比例するからそれだけでもずいぶん建物は楽になる。
そしてプランを工夫し、耐力壁や金物で補強していくわけだから、再生前より耐震性が劣ることはない。
後は予算との相談だ。
機能、デザイン、耐震性と、どこにお金をかけ、どこを我慢するか、バランスを取って設計し、ご提案する。
そこが設計者の腕の見せ所というものだ。
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